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アジアの銀行、パーム油問題企業 インドフードへの融資を増加〜欧米銀行の融資停止を穴埋め
銀行や投資家には、熱帯林減少の原因となっているパーム油等「森林リスク産品」への投融資に対して、NGOらから厳しい目が向けられています。それは当然で、森林セクターが抱える多くの問題ーー違法性、土地収奪、泥炭地及び熱帯林破壊、森林火災、労働者酷使といった環境、社会、ガバナンス(ESG)リスクは、銀行や投資家にとって重大な評判リスクや財務リスクとなる可能性があるからです。
しかしメガバンクを含むアジアの銀行は、このようなESGリスクへの対応が欧米の銀行と比べて明らかに遅れています。
問題企業への融資の典型的な例は、パーム油大手インドフード・スクセス・マクムル社(「インドフード」、IDX:INDF)への融資です。
インドフード:偽装した不正企業
インドフード はインドネシア最大財閥のサリム・グループの旗艦企業です。同国最大の食品会社で約 450億米ドルの時価総額を有し、世界最大級の即席麺製造会社です。また、子会社のインドフード・アグリ・リソーシズを通して、アブラヤシ農園をインドネシアで二番目に大きく保有しています。インドネシア、日本、マレーシア、シンガポールの銀行による資金提供が、熱帯林破壊及び関連する人権侵害に拍車をかけています。
2016年10月、RAN、国際労働権フォーラム(ILRF)、インドネシアの労働権擁護団体OPPUKは、インドフードのパーム油生産子会社に対して、パーム油認証制度「持続可能なパーム油のための円卓会議」(RSPO)の認証基準に違反したとして苦情を申し立てました。RAN、OPPUK、ILRFに加え、RSPO及びその認定機関が複数の調査を実施し、インドフードのパーム油事業に児童労働や給与未払い、不安定な雇用、性差別、有害な労働条件の事例など搾取的な労働慣行が存在することを確認しました。RSPOは、こうした調査結果を事実と認定し、2018年11月にインドフードに対して、20件以上のRSPO基準違反と10件のインドネシア労働法違反といった、子会社業務における労働者搾取に対処するよう求める決定を下しました。しかし必要な是正措置計画の提出をインドフードが拒否したため、2019年3月、RSPO認証の停止と会員資格停止を余儀なくされました。その一方で、同社の労働者が受けた被害や損害への改善措置は取られないままとなっています。
過去2年で、ネスレ、ウィルマー、ムシムマス、カーギル、不二製油、ハーシーズ、ケロッグ、ゼネラル・ミルズ、ユニリーバ、マースなどの15社が、インドフードの問題あるパーム油事業と取引を中止しています。インドフードの最高経営責任者(CEO)アンソニー・サリム氏が影で操るシャドーカンパニーを通じて、広大なボルネオ島の泥炭地で行っている違法皆伐や、西パプア州での深刻な土地紛争をめぐる対立などのパーム油事業についても、厳しい目が向けられています。2017年以降、同社パーム油子会社のインドフード・アグリ・リソーシズの株価は37%下落し、持続可能でないビジネスモデルが同社に財政的な打撃を与えていることを表しています。
シャドーカンパニーを通じたボルネオ島泥炭地での違法皆伐
銀行の役割
インドフードの市場シェアを考えれば、多国籍銀行や投資家が同社に魅力を感じるのも当然です。実際、インドフードのパーム油事業への資金増の3分の1は銀行の融資によるものです。しかし、同社事業に踏み込んだデュー・デリジェンス(相当の注意による適正評価)を実施すれば、責任ある銀行や投資家ならば必ず背を向けるような違法行為や人権侵害、環境破壊が蔓延しているのは明らかになります。では、どの銀行がこうしたリスクを軽減する措置を講じ、どの銀行がインドフードの「紛争パーム油」事業に今も加担しているのでしょうか?
2019年9月30日時点で、インドフードへの最大の資金提供者にはインドネシアのセントラル・アジア銀行(BCA、元サリムグループ)、マンディリ銀行、続いて日本の3メガバンクのみずほフィナンシャルグループ(みずほ)、三井住友フィナンシャルグループ(SMBCグループ)、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)が含まれます。
オーストラリアなど他の国の銀行では、オーストラリア・ニュージーランド銀行(ANZ)、シンガポールのDBS銀行、ユナイテッド・オーバーシーズ銀行(UOB)、マレーシアのCIMB銀行もインドフードに貸付を行っています。最近数カ月、BCA、みずほ、CIMBからの融資が目に見えて増加しています(下図参照)。
「インドフード及び子会社への与信限度額」(単位:百万米ドル)
出典:インドフード財務諸表、2019年9月30日
インドフードのRSPO認証が停止された後、欧米の銀行ーースタンダードチャータード、ラボバンク、シティグループーーはインドフードとの取引を解消しました。この3行が他のアジアの銀行と違う点は、顧客企業に対して、操業国の法令遵守とRSPO会員資格の保有を与信方針に明記し、RSPO認証を受けるための期限付き行動計画への誓約を求めている点です。インドフードのRSPO会員資格が停止された3月以降、インドフードへの資金提供はどの銀行の方針にも明らかに違反していました。インドフードの労働者酷使が明らかになったことで、シティ・グループは同社のパーム油事業への融資を2018年4月から停止しました。
対照的に、メガバンク3行、ANZ、DBSは与信方針違反の明確な証拠があるにもかかわらず、インドフードに数億米ドルの融資を続け、誓約及び方針遵守の担保能力に大きな疑問がもたれています。
3メガバンクは2018年と2019年に、内容に差はありますが、パーム油関連の顧客企業に合法で持続可能な事業を求める方針を採用しました。例えば、SMBCグループは「パーム油農園開発向けの融資のうち(略)児童労働などの人権侵害が行われている可能性の高い融資を禁止します」とし、「融資の際には、環境・社会に配慮して生産されたパーム油に与えられる認証である、RSPO、或いはそれに準ずる認証機関の認証を受けている(略)パーム油農園開発については支援します」と明記しています。MUFGも同様に、児童労働への融資は禁止しRSPOへの参加を推奨の上「お客様に対し(略)[パーム油認証]取得に係る行動計画の提出を求めます」としています。みずほは3メガバンクの中で与信方針が最も弱いですが、「持続可能なパーム油の国際認証・現地認証(略)に十分に注意を払い取引判断を行います」と述べています。各銀行の方針を当たり前に解釈すれば、インドフードへのさらなる資金調達は除外されるべきです。しかしそうせずに、3行全てが新規の融資契約を続けています。
RANは218年6月21日と27日に開催されたみずほとSMBCグループの株主総会に出席し、インドフードの法令違反を事例に、融資契約違反への対応について質問しました。みずほ側からは明確な返答がなかったものの、SMBCグループは融資契約についてはクレジットポリシーが書かれており、社会的規約に反することや環境破壊には与信を行わないこと、そして方針の主旨に反することがないよう、取引先には遵守を求めていると返答しました。同時に「インドフードのように、取引先企業が方針に違反した場合はファイナンスを禁止するのか?」と質問したところ、「個別の案件には回答しない」と質問時間の冒頭で断りを入れたものの、まずは事実関係を確認し、その上で取引継続の可否を慎重に判断するとの答えでした。MUFGには、東京での株主総会直前にサンフランシスコの子会社ユニオン・バンクにアピール行動を行い、インドフードとの取引をやめるよう求めました。
残りの銀行はどうかというと、DBSとANZはパーム油セクターで労働力搾取に関与する顧客企業への資金調達を禁止しているため、インドフードとの取引は自動的に除外されるべきです。一方、BCA、バンクマンディリ、CIMB、UOBには同社への資金提供を除外する明確なESG基準がありません。「OECD多国籍企業行動方針」と10月に発行されたガイドラインでは、銀行には顧客と直接関係する労働搾取などの問題が及ぼす悪影響または潜在的な悪影響を防止または軽減する責任があると明示しています。また、損害が予見可能である場合は銀行がその損害に加担している可能性さえあり、そうした場合、銀行には是正措置の責任があるとしています。OECD加盟国の銀行として、ANZ、3メガバンクは、こうした行動方針に違反し、世界的な評判を落とすリスクにさらされています。インドフードの持続可能でないビジネスモデルや市場リスクも、各行には財政上の懸念となるはずです。
投資家の役割
インドフードの主たる資金源は銀行ですが、機関投資家も同社のパーム油増資の10%を占めており、同社の問題ある「紛争パーム油」の拡大に加担しています。「多国籍企業のためのOECDガイドライン」によると、少数株しか保有しない投資家にも損害を軽減する責任があります。
インドフードの5番目の投資家である日本の年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)を含め機関投資家は、インドフード、子会社のファースト・パシフィック、関連上場パーム油企業数社を通じて、インドフードのESGリスクにさらされています。
2019年4月、国連の責任投資原則(PRI)に署名している機関投資家56機関、合計運用資産総額7.9兆米ドルがRSPOへの支持を表明し、パーム油バリューチェーン全体の全ての企業(生産者、精製業者、取引業者、消費財メーカー、小売業者、銀行など)に対して、公表する形で「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止」(NDPE: No Deforestation, No Peat and No Exploitation)方針を採用、実施し、農園まで遡った完全なトレーサビリティを確保するよう求めました。これら56の機関投資家には、インドフード及びサリム・グループ上場企業へ投資している上位5社は含まれないが、一部は少数株主で、その多くは上記の銀行の株式を保有しています。インドフードの方針は、企業グループレベルでの適用がされないためNDPEの基準に達しておらず、国際的な人権規範の遵守も、国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿った苦情解決も求めていません。上記の銀行で自行の方針にNDPEを明確に取り入れているのは、スタンダードチャータード、ラボバンク、DBS、ANZだけであり、パーム油方針を持ちながら、3メガバンクはNDPE方針がないことが際立ちます。投資家はNDPEに沿ったより良い方針と慣行を要求して、責任あるパーム油を保証する必要があります。
銀行、投資家、規制当局への提言
インドフードやサリム・グループ傘下企業に金融サービスを提供している金融機関は、同社のパーム油事業に起因する環境および人権への悪影響について責任を負っています。銀行や投資家はその影響力をもって、インドフードとサリム・グループ企業に以下を要求すべきです:
- RSPOが指摘した労働者酷使に対応するため、実施可能かつ期限付きの実施計画を公表すること
- 国連の「ビジネスと人権に関する指導原則」に沿った信頼性の高い苦情処理メカニズムの確立と、立証された労働違反や既存の土地紛争を救済するための第三者により検証される是正措置
- 高炭素貯留アプローチ(HCSA)の要求事項の遵守が確認され、劣化した泥炭地の回復に投資が行われるまで、すべての新規農園開発を直ちに中止すること
- アンソニー・サリム氏が間接的にコントロールしている企業と第三者サプライヤーを含め、サリム・グループ全体に包括的なNDPE方針が採用されること
銀行や投資家がインドフードへの資金提供を続ける場合は上記の要求を満たすことを条件とし、それができない場合は、シティやラボバンク、スタンダード・チャータードが行ったように、同社からの投資を引き揚げるべきです。
規制当局は、銀行や投資家がポートフォリオの中にこうしたリスクがあることを適切に開示して厳密に対処し、関連する全ステークホルダーに進捗を報告するよう徹底すべきです。インドフードは、金融セクターの持続可能性へのコミットメントを問う重要な「リトマス試験紙」と考えるべきでしょう。