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ファイナンスとパリ協定との整合性を求める緊急要請
NGO44団体 三菱UFJ、三井住友、みずほにパリ協定との整合性を要請
国内外のNGO44団体は、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)など日本のメガバンクに、ファイナンスをパリ協定に整合させるよう緊急要請を行いました。要請書はMUFG、三井住友フィナンシャルグループ、みずほフィナンシャルグループの最高経営責任者(CEO)と取締役に送付されました。以下は、MUFG宛の要請書です。
三菱UFJフィナンシャル・グループ
取締役 代表執行役社長 グループCEO 亀澤 宏規様
取締役各位
ファイナンスとパリ協定との整合性を求める緊急要請
私たち、以下に署名したNGOは、悪化する気候危機に対する貴社、三菱UFJフィナンシャル・グループのお取り組みに強く失望していることをお伝えしたく、この要請書を提出致します。 私たちは、MUFGが化石燃料に関連する事業や森林破壊をもたらす産品事業に資金を提供することにより、それらに関係する先住民族の権利や人権を侵害し、深刻かつ不可逆的な影響を及ぼしていることのみならず、貴社に対しても重大な評判リスクや財務リスクをもたらしていると考えています。そのため私たちは、貴社に対し、以下に示しますように、ファイナンス事業を改革し、持続可能性へのコミットメントを強化するとともに、貴社のファイナンス全てに関わる排出量をパリ協定の目指す1.5度の目標と整合させることを要請します。
今日、気候変動はグローバルな政治課題となっています。2020年10月26日、菅義偉首相は、2050年までにカーボンニュートラルを達成することを宣言し、石炭火力政策や産業構造の抜本的な転換をする方針を示しました。また、米国ではジョー・バイデン新政権が、2035年の電力部門のゼロエミッション化及び遅くとも2050年までに排出実質ゼロにする方針を掲げ、大統領就任直後に米国のパリ協定復帰と石油・ガス開発規制を打ち出しました。規制対象には、貴社が資金面で支援をしてきた事業であり、問題視されている 「キーストーンXL」オイルサンド・パイプラインの建設認可停止も含まれています。こうした政策措置によって座礁資産のリスクは高まっています。
気候危機が悪化すれば、金融部門に構造的リスクが生じます。2020年12月時点で、世界の平均気温は産業革命以前の水準を約1.2度上回り、過去10年間の平均気温は観測史上最高を記録しました。アントニオ・グテーレス国連事務総長は「今世紀中に3~5度気温上昇するという壊滅的な状況に向かっている」と厳しい警告を発しています。このままでは気候変動による破壊的な影響が出ることになり、ひいては金融部門を大きく揺るがしかねません。2020年の自然災害による被害総額は、米国内だけでも前年比で2倍の950億ドルに達していますが、これは気候変動による被害額の高騰を反映するものです。
気候危機の緊急性にもかかわらず、貴社は、特に化石燃料や森林破壊に関連する産品事業への資金提供を行い、二酸化炭素排出量増加に大きく寄与し続けています。2016年から2019年にかけて、貴社はあらゆる化石燃料部門に対して1,188億米ドルを超える融資と引受を行い、同期間における化石燃料への資金供給額で世界6位の銀行となっています。1.5度の目標達成に必要な化石燃料への資金提供の段階的打ち切りに対する貴社のコミットメントは今もって非常に限定的です。 昨年末には「ベトナム・ブンアン2石炭火力発電所事業に融資する」との決定を下されましたが、これは、「新設の石炭火力発電所へのファイナンスは原則として実行しない」という貴社の方針の実効性について深刻な疑問を投げかけるものです。
また、貴社は、重要な生態系、特に炭素を豊富に含む熱帯林や泥炭地を破壊している林業やアグリビジネス(農業関連産業)に資金を提供することで気候危機を助長しています。特に貴社は、OECD加盟国に本社を置く金融機関の中で最大のパーム油への資金提供者で、インドネシアを世界有数の温室効果ガス排出国たらしめている熱帯林破壊や泥炭地破壊、壊滅的な火災に大きく関与しています。熱帯林破壊その他の土地利用転換は、現在の新型コロナウイルスのパンデミックとも関係しています。しかしながら、森林や泥炭地の土地転換や劣化を着実に防ぎ、生物多様性への悪影響を回避し、顧客企業の事業によって影響を受ける先住民族や、森林に依存する地域コミュニティの権利を尊重する方針や手順を貴社は有していません。
貴社の気候対策に対する野心の欠如は、積極的な取り組みを行っている他の大手銀行や企業とは対照的です。例えば直近数カ月を見ても、JPモルガン・チェースなど複数の世界的な大手銀行が、2050年までにパリ協定との整合性または金融に関わる排出量ネットゼロを達成するというコミットメントを発表しています。先月、世界最大の資産運用会社ブラックロック社もネットゼロ経済に向けて真剣に取り組むことを発表し、投資先企業に対してネットゼロ経済に対応する事業モデルの計画開示を求めました。日本でも、企業がより一層野心的な気候政策を求めるようになっており、先日、気候変動イニシアチブ(Japan Climate Initiative)に参加している92社が「2030年にエネルギー使用量の40~50%を再生可能エネルギーで賄う」ことを約束するよう日本政府に求めています。しかし、貴社はその企業に名を連ねていません。
貴社は、国連責任銀行原則(PRB)を支持し、事業戦略をパリ協定および持続可能な開発目標(SDGs)に整合させること約束しています。それを踏まえ、私たちは、 化石燃料拡大や森林破壊がさらに進めば気候を安定させる全体の力が著しく損なわれるという世界的コンセンサスを前提に、貴社の融資を「パリ協定と整合性のある金融機関原則」に整合させることを求めます。 特に、今年11月に開催予定の第26回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP26)までに以下の行動をとることを強く求めます。
- 貴社の事業戦略および投資を含む全てのファイナンスを、パリ協定の1.5度目標達成と整合させることを約束する、代表執行役社長 グループ CEO の声明を発表すること
- 化石燃料の採掘及びインフラの拡大や既存の採掘事業・化石燃料プロジェクトの期限を延長する事業への融資等、化石燃料採掘及びインフラの拡大、未開発埋蔵量の探査などを行っている企業への融資等を全面的に禁止すること。また、地球の温度上昇を1.5度までに抑制することと整合する明確なタイムラインに沿って、化石燃料の採掘とインフラへの融資等の段階的打ち切りを約束すること
- 与信方針の見直しを行い、全ての顧客企業や投資先企業に対し、グループ全体の事業活動を通じて、天然林をはじめとする自然生態系の劣化・損失を禁止する「森林破壊禁止、泥炭地開発禁止、搾取禁止方針(NDPE:No Deforestation, No Peat and No Exploitation)」の遵守を義務付けること
- 顧客企業や投資先企業が、労働者の権利、「先住民族の権利に関する国際連合宣言」(UNDRIP)に明記されている先住民族の権利および「自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意」(FPIC:Free, Prior and Informed Consent)の権利をはじめ、あらゆる人権を完全に尊重するような強固なデューデリジェンス(相当の注意による適正評価)と検証メカニズムを構築するとともに、人権を侵害する事業や企業への融資を全面的に禁止すること貴社ファイナンスをパリ協定の1.5度目標達成と整合させるという約束を確実に遵守するためのプロセス、並びに気候および持続可能性に対するリスクについて、取締役会による監督を強化すること
- 貴社のファイナンスに関わる排出量、同排出量の測定に用いるプロセスと方法、および上記対策の実施の進捗状況について、現在の貴社の開示内容を拡大し、毎年開示すること
以上、喫緊の要望についてご検討いただければ幸甚に存じます。その上で、これらの要望に対する貴社のご対応につきまして、概要を記述した回答文書を、3月2日までにレインフォレスト・アクション・ネットワーク(japan@ran.org)宛てに送付いただけますよう重ねてお願い申し上げます。
賛同団体
Ginger Cassady, Executive Director, Rainforest Action Network (RAN)
Johan Frijns, Director, BankTrack
Natalie Bugalski, Legal and Policy Director, Inclusive Development International
Elizabeth Bast, Executive Director, Oil Change International
Peter Bosshard, Program Director, Finance Program, The Sunrise Project
田辺有輝 「環境・持続社会」研究センター(JACSES)プログラムディレクター
横山隆美 国際環境NGO 350.org Japan代表
Julien Vincent, Executive Director, Market Forces
木口由香 メコン・ウォッチ事務局長
Heffa Schücking, Director, Urgewald
Mary Gutierrez, Executive Director, Earth Action, Inc.
Emily Johnston, Communications Director, 350 Seattle
Osprey Orielle Lake, Executive Director, Women’s Earth and Climate Action Network (WECAN)
Mary Kay Benson, Steering Council Manager, 350 Butte County (CA)
Matt Remle, Co-founder, Mazaska Talks
Edisutrisno, Executive Director, Transformasi untuk Keadilan Indonesia (TuK Indonesia)
Matt Remle, Editor in Chief, Last Real Indians
Marie Venner, Co-Chair, Businesses for a Livable Climate
高田久代 国際環境NGOグリーンピース・ジャパン プログラム部長
Lucie Pinson, Executive Director, Reclaim Finance
Lea Harper, Managing Director, FreshWater Accountability Project
Brett Benson, Communications Director, MN350
Renate Heurich, Board Vice President, 350 New Orleans
Marie Venner, Co-Chair, CatholicNetwork.US
Evelyn Austin, Executive member/Coordinator, Divest Canada Coalition
Cheryl Barnds, Co-Chair, Rapid Shift Network
満田夏花 国際環境NGO FoE Japan事務局長
Heffa Schuecking, Director, Urgewald
Kees Kodde, Coordinator, Fair Finance International
Tracey Davies, Executive Director, Just Share
Debbie New, Creative Director, Climate Finance Action
Kellie Berns, Program Director, Earth Guardians
Mitzi Jonelle Tan, Convenor, Youth Advocates for Climate Action Philippines
Marie Venner, Co-Chair, Call to Action Colorado
Made Ali, Executive Director, Riau Forest Rescue Network (Jikalahari)
Torganda Simanjuntak, Chairman, AMAN Tano Batak
Jefri Sianturi, Executive Director, Senarai
平田仁子 気候ネットワーク 国際ディレクター
Brian Wilder, Bank Campaign Coordinator, Climate Action Rhode Island-350
Irfan Toni H, Asia Digital Manager, 350.org Asia
Delima Silalahi, Executive Director, Kelompok Study dan Pengembangan Prakarsa Masyarakat (KSPPM)
Lidy Nacpil, Coordinator, Asian Peoples Movement on Debt and Development
Susan V. Tagle, Coordinator, Asia Energy Network
原田公 熱帯林行動ネットワーク(JATAN)代表
1 レインフォレスト ・アクション・ネットワーク「北米パイプライン『ライン3』と『キーストーンXL』の黒
幕:オイルサンド・パイプライン建設を支援する世界の銀行」、2020 年12 月16 日
http://japan.ran.org/?p=1758
2 World Meteorological Organization, The State of the Global Climate 2020 (Jan. 2021),
https://public.wmo.int/en/media/press-release/2020-track-be-one-of-three-warmest-years-record
3 https://public.wmo.int/en/media/news/un-chief-moment-of-truth-people-and-planet. 次も参照:UN Environment
Programme, Emissions Gap Report 2020, https://www.unenvironment.org/emissions-gap-report-2020.
4 IPCC, Special Report on Global Warming of 1.5 °C (2018), https://www.ipcc.ch/sr15/
5 https://www.nytimes.com/2021/01/07/climate/2020-disaster-costs.html
6 RAN 他『化石燃料ファイナンス成績表2020』、2020 年3 月18 日
http://japan.ran.org/?p=1582
7 No Coal Japan プレスリリース「39 カ国の128 団体が日本の官民にブンアン2 石炭火力からの撤退を要求」、2021 年1 月25 日
https://www.nocoaljapan.org/ja/128-organizations-from-39-countries-demand-the-japanese-government-andcompanies-
to-withdraw-from-vung-ang-2-coal-power-plant-project-in-vietnam/
8 参照:RAN 他「森林と金融」データベース https://forestsandfinance.org/?lang=ja、RAN『森林火災・違法行
為とメガバンク』2020 年1 月29 日 http://japan.ran.org/?p=1551
9 IPBES Workshop Report on Biodiversity and Pandemics (2020), https://www.ipbes.net/pandemics
10https://www.jpmorganchase.com/news-stories/jpmorgan-chase-adopts-paris-aligned-financing-commitment. 次
も参照: https://www.ran.org/press-releases/jpmc-commits-to-align-with-paris-climate-accord-watchdog-groupwarns-
commitment-falls-far-short/
11 https://www.blackrock.com/jp/individual/ja/2021-larry-fink-ceo-letter. 次も参照:https://blackrocksbigproblem.com/larrys-letter-our-in-depth-analysis/
12 https://japanclimate.org/news-topics/re2030increment/
13 RAN「パリ協定と整合性のある金融機関原則」2020 年10 月30 日 http://japan.ran.org/?p=1760
14 350.org「3 メガバンクのTCFD 提言に沿った開示を評価」、2020 年9 月24 日
https://www.nocoaljapan.org/ja/evaluating-tcfd-recommendations-jp/